第70番札所から約12キロ。三豊平野を見下ろす中蓮寺峰の中腹、標高約280メートルに位置するのが第71番札所・弥谷寺(いやだにじ)です。
古くから「死者の霊魂が帰る山(霊山)」として信仰され、恐山(青森)や立山(富山)と並ぶ日本三大霊場の一つに数えられることもあります。
540段もの石段を登った先には、岩壁に囲まれた本堂や、弘法大師が学問に励んだ「獅子の岩屋」があり、他の札所とは一線を画す神秘的で厳かな空気に包まれています。
| 山号・院号 | 剣五山 千手院(けんござん せんじゅいん) |
|---|---|
| 宗派 | 真言宗善通寺派 |
| 御本尊 | 千手観世音菩薩(せんじゅかんぜおんぼさつ) |
| 開基 | 行基菩薩 |
| 御真言 | オン・バザラ・タラマ・キリク・ソワカ |
| 御詠歌 | 悪人(あくにん)と 行(ゆ)き連(づ)れなんも 弥谷寺(いやだにじ) ただかりそめも 良き友(とも)ぞよき (意味:悪人と連れ立って弥谷寺へ行くよりも、たとえ一時であっても良い友と巡礼する方が良い。善き縁を大切にしなさい) |
71番札所・弥谷寺の歴史と縁起
聖武天皇の勅願により、行基菩薩が堂宇を建立し、光明皇后が奉納した「大方等経」を納めて開基しました。
弘法大師は幼少の頃、この山の「獅子の岩屋(ししのいわや)」で学問に励み、後に唐から帰国した後もこの地で護摩を修法しました。その際、蔵王権現(ざおうごんげん)のお告げにより、5本の剣を山に埋めて鎮護国家を祈願したことから、山号を「剣五山」と改めました。
古くから「弥谷へ参らねば、親の供養にならない」と言われるほど、先祖供養の聖地として重要な役割を果たしてきました。
境内の見どころ:540段の石段と神秘の岩屋
駐車場から本堂までは長い石段が続きます。一段一段踏みしめるごとに、聖域へと近づいていく感覚を味わえます。
1. 試練の「540段の石段」
仁王門から大師堂までは約270段、そこから本堂まではさらに石段が続きます。
途中の「百八階段」は、煩悩の数と同じ108段あり、登ることで煩悩を消滅させると言われています。参道沿いには無数のお地蔵様や石仏、卒塔婆(そとば)が並び、死者の霊を弔う霊場独特の厳粛な雰囲気が漂います。
2. 大師修行の地「獅子の岩屋」
大師堂は、巨大な岩壁にある洞窟「獅子の岩屋」を覆うように建てられています。
ここは弘法大師が幼少期に学問に励んだ場所とされ、堂内から岩屋の内部を拝観することができます。岩屋には大師像や、大師の両親の像、阿弥陀三尊像などが安置されており、神秘的なパワーを感じるスポットです。
3. 岩壁の「磨崖仏(まがいぶつ)」
本堂へ向かう途中、岩壁をよく見ると、岩に直接刻まれた仏像「磨崖仏(阿弥陀三尊)」を見つけることができます。
風雨にさらされ摩耗していますが、そこには古の人々の祈りが深く刻まれています。「南無阿弥陀仏」の名号が彫られた岩など、岩山全体が信仰の対象となっていることを実感できます。
御朱印・納経について
参拝後は納経所へ。弥谷寺の御朱印には、千手観音を表す梵字(キリーク)と「本尊 千手観世音」の文字が記されます。
納経所は大師堂の近くにあります。ここまで登ってきた苦労を労いつつ、御朱印をいただきましょう。
アクセス・駐車場・参拝案内
- 所在地: 香川県三豊市三野町大見乙70
- 第70番からの距離: 第70番札所・本山寺から約12km。車で約20分、徒歩で約3時間。平野部から山間部へと入っていきます。
- 駐車場: あり(有料:普通車500円)。山の中腹まで車で上がることができますが、そこからさらに石段を登る必要があります。
- マイクロバス等: マイクロバス以上の大型車は、中腹の駐車場までは上がれません。麓の駐車場(無料)を利用し、そこから徒歩(約20分)または参拝用バス(有料・要確認)を利用します。
- 次の札所へ: 第72番札所「曼荼羅寺」までは約4km。山を下り、善通寺市方面へ向かいます。
まとめ:霊魂が集う山で命を想う
第71番札所・弥谷寺は、ご先祖様や亡き人を身近に感じる、追善供養の聖地です。 静寂な岩屋で手を合わせ、今ある命のつながりに感謝する。少し怖いようでいて、深い安らぎを与えてくれる不思議なお寺です。